去る3月23日、僕は一つ歳をとってしまった。
それは、僕が尊敬する作家・山際淳司さんの享年を越えてしまったことになる。
山際さんといえばもちろん「江夏の21球」で華々しくデビューし、スポーツ・ノンフィクションという新たな道を開拓したスポーツ・ライターだ。
そんな山際さんの、年齢だけを越えてしまったわけだ。
何か虚しい気分である。
山際さんが書いたエッセイで、好きなフレーズがあるので、それを書き記しておく。
エッセイ集「ウィニング・ボールを君に(実業之日本社)」から引用した。
「変身願望」
怪人二十面相を、ぼくは当面の目標にしている。変幻自在、常に何者かであって、実は何者でもない。何者かであろうと並々ならぬ技を駆使し、その者になりきったとき、彼はもう、次の誰かに姿を変えている。
(中略)
正確に書けば十三年前、ぼくは何者でもなく、また、何者になりたいとも思っていなかった。それは大学四年の秋のことで、ぼくはただひたすら退屈していた。
(中略)
「自分がこういう人間なのだと決めつけてしまうのはつまらない。そう決めた瞬間に目の前にはたった一本の道しか見えなくなってしまうのだから」
要するにぼくは、安易に自己完結したくないのだ。人生はいつだって、旅の途中―。
山際淳司 江夏の21球物語(日本テレビ系「知ってるつもり?!」より)