今季からメジャーリーグ(MLB)で本格的にチャレンジ制度が導入された。
昨季まではホームラン判定の時にのみ採用されていたビデオ判定が、ストライクやボールを除くほぼ全てのプレーに対して適用される。
監督は判定の不服があった場合、1試合に一度だけビデオ判定を求めることができるが(チャレンジ)、判定が覆った場合はもう一度チャレンジをする権利が与えられる。
なお、7回以降は責任審判の判断でビデオ判定ができる。
日本プロ野球(NPB)はMLBに追随することが多いので、チャレンジ制度を採用する可能性が高いが、現実的には困難が伴うという。
MLBでビデオ判定するのはその球場ではなく、その日全ての試合の映像が送られてくるニューヨークの一室で、そこにいる審判団がVTRを見て判定するのだ。
このシステムを完成させるには10億円の費用がかかり、財源確保もさることながら地方球場での試合が多いNPBでは同様のシステムを作るのは難しい。
ただし、現在のNPBはCS放送等で全試合テレビ中継されているので、その映像を利用してビデオ判定するという方法も考えられる。
それに、ホームラン判定ではビデオが活用されているのだから、全くできないわけではないだろう。
さて、MLBが開幕して1ヵ月経ったが、チャレンジは予想以上に行われている。
試合序盤でチャレンジ失敗して権利を失ったために、試合終盤に重要な場面での微妙な判定でチャレンジを使えなかった、というケースもあった。
チャレンジをどのタイミングで使うか、というのも重要な戦法になってくるだろう。
チャレンジ制度は概ね好評のようだが、問題がないわけではない。
ビデオ判定の結果が出るまでのドキドキ感がいい、というファンも多いが、試合の流れを断ち切られるのは間違いない。
例えば、無死一、二塁で打球はセンター前へ、ノーバウンドかワンバウンドか微妙なところでセンターがキャッチ、審判はダイレクトキャッチを宣告したために一塁走者と二塁走者は慌てて塁に戻り、センターは二塁に送球するも間一髪セーフ、というケースがあったとする。
この際、攻撃側の監督がチャレンジをして、ビデオ判定の結果がワンバウンドキャッチとなったら、二塁走者はどうなるのか。
二塁走者は三塁を踏んでいないのだからフォースアウトか。
いや、センターは三塁に送球していないのだから、アウトにもならないとも言える。
それでも二塁には送球しているのだから、一塁走者はフォースアウトとなるはずだ。
それに、二塁走者は三塁を踏んでいないのだから、本来なら三塁に進塁はできない。
つまり、チャレンジ成功しても一死一、二塁という、ダイレクトキャッチの時と変わらない状況となってしまう。
インプレー中は常にゲームは動いているのだから、当然こんなケースも有り得るのである。
まあ、こういう場合は審判団の判断により無死満塁で試合再開となるのだろうが、ゲームの流れがブツ切られてしまうことには変わりない。
つまり正確なジャッジを求めるために、野球というスポーツが大きく変質してしまう危険性があるのだ。
このあたりのルールの整備も必要だろう。
また、試合時間が長くなるのも懸念材料だ。
ただでさえ現在の試合時間は長くなる一方で、野球の最大の問題点となっている。
ビデオ判定により試合時間増加を促すルールを採用する反面、7イニング制だのタイブレークだの、野球の本質を大きく変えてしまう制度を採用しようとしている。
どこか本末転倒な感を受けてしまうのは僕だけだろうか?
とはいえ、他のスポーツでもビデオ判定は採用されているし、時代の流れだとも言える。
ましてやプロである以上、一つの判定で大金が大きく動いてしまうので、ビデオ判定導入もやむなしなのかも知れない。
そこで提案があるのだが、ルールを整備したうえでビデオ判定を導入するにあたって、アメリカン・フットボールのチャレンジ制度を参考にしたらどうだろうか。
アメフトでは前半と後半それぞれ3回ずつ、タイムアウトを取ることができる。
だがチャレンジして判定が覆らなかったら、タイムアウトの権利が1回なくなってしまうのだ。
時間制のアメフトにおいてタイムアウトは非常に重要な戦術であり、それゆえできるだけ大事な場面まで使わないでおきたいのである。
そのため、絶対に判定が覆る自信がなければチャレンジを要求しないのだ。
それを野球のチャレンジ制度でも応用しようというわけである(早い話がパクリ)。
野球ほど試合中に何度でも作戦会議をするスポーツはない。
前述のアメフトやバレーボールなどではタイムアウトの回数は決まっている。
サッカーやラグビーなどのイギリス生まれのスポーツはタイムアウトなどなく、ハーフタイム以外では首脳陣が選手たちに指示を与えることすらできない。
つまり試合中は、選手の判断に任されるのだ。
だが、野球ではピンチになるたびにベンチから監督やピッチング・コーチがのっしのっしとマウンドに行く。
野球はただでさえ間が多いスポーツなのに、あのシーンを見るたびに僕などはイライラしてしまう。
同じ投手の時は1イニングに一度しか監督・コーチはマウンドに行けないという制限はあるものの、それ以外はまったくの自由だ。
野球は攻撃中にいくらでも作戦会議なんてできるのに、あまりにもマウンドに集まることが多すぎる。
それが試合時間増加を助長し、ファンに退屈な思いをさせているのは間違いない。
しかもコーチがアドバイスを与えたからと言って打ち取れるわけでもなく、キッチリ打たれたら何のための作戦タイムだったのかと誰でも思ってしまう。
だが野球人は、それが当たり前だと思っているのだ。
そこで、タイムの数を制限するルールを設ければいい。
現在、高校野球では1試合で3回の守備タイムが認められているが(延長戦を除く)、投手交代が多いプロだったら2回で充分だ。
つまり、投手交代のとき以外で監督・コーチがマウンドに行くのは、1試合で2回に制限するのだ。
そしてチャレンジに失敗すれば、首脳陣がマウンドに行くのは1回減ってしまうのである。
このルールなら正確なジャッジが期待できるビデオ判定も採用できて、それでいて本当に必要な時以外でみだりにビデオ判定を求めることもなく、さらに首脳陣がマウンドに行く機会も激減するだろう。
試合時間を短縮するために、7イニング制やタイブレークを導入して野球の本質を変えてしまうのは本末転倒である。
それよりも、今の野球での無駄な時間を排除して試合時間短縮を図るのが本当の姿ではないのか。
現在の野球界を見ていると、その努力をしているとは思えない。
チャレンジ制度を導入するなら、野球の本質を変えずに試合時間短縮をセットとしたルール作りをしてもらいたいものだ。
それともう一つ、たとえビデオ判定を採用しても、ビデオはあくまでも従で、審判の判定を主とする基本的姿勢は貫くべきだろう。