かつて、ヤクルト・スワローズに在籍したボブ・ホーナーは「日本のベースボールは『野球』という名の別のスポーツだ!」と言い放った。
来日した外国人のラガーマンで「日本のラグビーは『闘球』という名の別のスポーツだ!」なんて言った選手はいない。
そりゃそうだ。日本でも現在では『闘球』なんて言葉は使わない。
ところが、現実にラグビーは二つ存在する。
むしろ、日本ではあまり知られていない。
日本で盛んに行われているのは「ラグビー・ユニオン」である。
よく「リーグ・ラグビー」「ユニオン・ラグビー」と呼ばれるが、正確には「ラグビー」が先に来る。
僕がラグビー・リーグの存在を知ったのは比較的早く、高校生の頃で、この時にはまだ日本ではリーグはプレーされていない。
テレビ東京で世界のスポーツを紹介する番組があったが、そこでラグビー・リーグが取り上げられていた(この番組では「リーグ・ラグビー」と呼んでいたような気がする)。
番組ではユニオンとの違いを説明していた。
ユニオンではタックルされるとラックやモールが形成されるが、リーグではそんなことはない、と。
ラグビーが生まれたのは、言うまでもなくイギリス。
元々はユニオンとリーグの違いなんてなかったが、イングランド北部で労働者階級がラグビーを始めると、怪我人が続出した。彼らは労働者なので怪我をすると仕事に差し支える。
そこで、ラックやモールなどの密集プレーは危険ということで廃止された。
これがラグビー・リーグの始まりである。
また、労働者たちは金銭が必要だったので、リーグはいち早くプロ化された。
イギリスやオーストラリアでは、リーグはユニオンに勝るとも劣らない、人気スポーツとなった。
一方、伝統的なラグビーはイギリスの貴族階級で楽しまれ、これがラグビー・ユニオンとしてそのまま残った。
金銭的に余裕のある彼らにとってラグビーはあくまでも余暇に楽しむものだったので、アマチュアリズムが守られたのである。
ユニオンでのプロ化が容認されたのは、ごく最近の1995年のことだ。
ユニオンもリーグも楕円球を使い、パスやキック、ランがあって、ボールを前に投げてはダメで、味方のボールキャリアより前にいる選手がプレーに参加すると「オフサイド」という反則になる。
この点では同じラグビーということで共通しているが、異なる点もたくさんある。
では、ユニオンとリーグの主な違いを見てみよう。
●正規の人数→ユニオン:15人 リーグ:13人
●スクラム→ユニオン:押し合いが勝負を左右する リーグ:押し合うことはほとんどない
●ラインアウト→ユニオン:重要な戦術 リーグ:なし
●密集プレー→ユニオン:モールとラックがある リーグ:なし
●攻撃権→ユニオン:定めなし リーグ:6回のタックルが成立すると攻守交代
●得点→ユニオン:トライ5点、コンバージョン2点、PG3点、DG3点 リーグ:トライ4点、コンバージョン2点、PG2点、DG1点
●背番号→ユニオン:前(フォワード)から順番に着ける リーグ:後(バックス)から順番に着ける(サッカー方式)
こんなところだろうか。
最大の違いは、ユニオンには密集プレーがあり、リーグは攻撃側と守備側に分かれる、という点である。
つまり、リーグはアメリカン・フットボールに似ていると言える。
ユニオンでタックルが成立すると、ラックやモールを形成してボールの争奪戦が始まる。
だがリーグではタックルが成立すると、守備側は直ちに離れて、攻撃側はボールを足で後ろの味方に掻き出して、新たな攻撃を開始する。
これをプレイ・ザ・ボールと言い、プレイ・ザ・ボールからタックル成立までが1回の攻撃というわけだ。
ラグビー・リーグでのプレイ・ザ・ボール。タックルが成立すると、守備側の選手はその場から離れて、攻撃側の選手はボールを後ろに足で掻き出し、新たな攻撃が始まる
今大会でのトライシーン。タックルが成立すると、守備側の選手はすぐに離れる。ユニオンならラックになってボールの争奪戦が始まるが、リーグでは攻撃権を保持したままリスタートする
ラグビーリーグ7人制 追手門学院大学 2013年7月21日 - YouTube
ユニオンを見慣れた人(特に日本のラグビーファン)は、ボールの争奪戦がないリーグはやや物足りないと思うかも知れない。
だが逆に、初心者がラグビー(ユニオン)を初めて見たときに、一番わかりにくいのがラックやモールといった密集状態だという。
そういう意味では、初心者にとってはユニオンよりもリーグの方がわかりやすいだろう。
実際に、リーグの方がユニオンよりもルールはシンプルだ。
リーグの最大の魅力はオープン攻撃である。
6回タックルが成立すると、相手に攻撃権が移ってしまうので、それまでにトライを奪わなければならない。
つまり、ユニオンのようにフェイズを重ねるというわけにはいかず、タックルが成立する前にパスやランで攻撃を継続しようとする。
昨季は日本(ユニオン)のパナソニック・ワイルドナイツでプレーしたソニー・ビル・ウィリアムズ(SBW)の芸術的なオフロード・パスは、リーグによって培われたのだろう。
SBWは元々、リーグの選手だったのだ。
今年(2013年)の7月21日、大阪府茨木市の追手門学院大学でラグビー・リーグの7人制大会が行われた。
リーグの大会を開催するのは、関西では初めて。
大学生を中心に数チームが参加し、熱戦が繰り広げられた。
でも、ほとんどがリーグの初心者。
タックルが成立してもユニオンの癖が出て、そのままプレーしようとする選手も多かった。
ラグビーリーグ協会の理事の方に話を訊くと。関西ではリーグはほとんど浸透していないという。
これを機に、これからも関西でのリーグの大会を開催したい、と仰っていた。
元々関西には近鉄花園ラグビー場があり、ラグビーが盛んな土地柄。
ユニオンと共にリーグも盛り上がれば面白いと思う。
ユニオンでは7人制がオリンピック種目になったが、むしろリーグの方が7人制に適しているのではないか?と思ったほどだ。
個人スキルが物を言う7人制なら、リーグのルールの方がふさわしい、と感じたのである。
閉会式後の集合写真。外国人選手も参加していた
日本でラグビー・リーグが始まったのは1993年。
翌94年には日本代表が結成された。
愛称は「サムライズ」。
野球日本代表の「侍ジャパン」よりも歴史は古いわけだ。
ユニオンからの転向組では、長岡法人や沖土居稔がユニオンとリーグ両方の日本代表に選ばれている。
沖土居といえば、1987年の第1回ユニオンのW杯に出場し、ワラビーズ(オーストラリア代表)戦で40mドロップゴールを決め、同年に来日したオールブラックス(ニュージーランド代表)とのテストマッチでジャパン唯一のトライを挙げた。
他にも、海外でプロ契約した日本人選手もいる。
これから日本で、どんなリーグ選手が育つのだろうか。
ユニオンとリーグが車の両輪のように発展してくれれば、と思う。
オーストラリアとニュージーランドで行われているラグビー・リーグ「NRL」
NRL 2013 State of Origin Game 1 Highlights: NSW ...