東西を代表する高級歓楽街といえば、東京・銀座と大阪・北新地で決まりだろう。
芸能人やプロスポーツ選手は銀座で飲むことをステータスとし、大阪に来た一流企業の役員を接待するのが北新地である。
地理的にも両者は似た面がある。
銀座は東京の玄関口である東京駅に比較的近く、北新地も大阪の玄関口・梅田地区の大阪駅に近接している。
だが、銀座と北新地は似て非なる存在だ。
銀座は歓楽街のみならず、商業地域としての貌も持つ。
隣接する有楽町も含めて大型デパートが林立し、また資生堂のような大企業もある。
筆者が初めて銀座に行ったとき、昼食を摂りに資生堂パーラーに入ったところ、カレーライスが2500円だったので目の玉が飛び出てしまった。
カレーの中に化粧品が入っているのではあるまいな?と疑ったほどだ。
さらにレジで並んでいると前にいた二人組の客が2万円も支払っていたので、「ランチにどれだけ金を使うんだ!?」と驚いたのを憶えている。
外に出ると、日曜日だったので前の広い道路が歩行者天国になっていて二度びっくり。
ホコ天という言葉は聞いたことはあったが、広い道路に大勢の人が歩いている図は想像できなかった。
大阪ではまずお目にかかれない光景である。
要するに銀座とは、夜の歓楽街という貌以外にも、昼間でも大勢の人が行き交う街なのだ。
一方の北新地はどうか。
北新地は「歓楽街」以外の形容詞がない、としか言いようがない。
大企業があるわけでもなく、大型デパートもない。
路地は非常に細く、昼間はひっそりとしている。
もちろんレストランなどもあるのだが、昼間に賑わうような場所ではないのだ。
その代わり、日が暮れて暗くなると、北新地の様相は一変する。
おそらく、こんな街は東京にもあるまい。
夜だけ輝く街、それが北新地である。
銀座に似ている街といえば、大阪では心斎橋だろう。
高級なイメージのあるキタと違い、心斎橋は庶民的とも言えるミナミに属するが、歓楽街には変わりがない。
さらに大型デパートも立ち並び、高級ブランド店も多く進出している。
若者の街・アメリカ村がすぐそばにあり、昼間でも多くの人で賑わっているのだ。
さらに心斎橋の北側にはビジネス街の本町が隣接し、多くの企業がひしめいている。
こういう点でも、心斎橋は銀座に似ている。
そういう意味では、北新地は高級歓楽街以外の呼び方がない、それ以上でもそれ以下でもない、日本でも稀有な街と言えよう。
話は前後するが、大阪にはキタとミナミという代表的な繁華街がある。
キタは大阪駅がある梅田を中心とする地区で、ミナミは心斎橋や難波といったいかにも大阪らしい庶民的な地域だ。
北新地は当然のことながらキタに所属し、梅田地区よりも南にある。
ちなみに「北新地」なんていう地名は存在しない。
正しい地名は「曽根崎新地」なのだが、「キタの新地」という呼び方が定着したのか、今では「北新地」という名前の方が有名になって、1997年に開通したJR東西線の新駅名も地域の運動によって「北新地駅」となった。
現在でも北新地の入口には「北新地」というネオンが輝いている。
北新地の東側の入口にあるネオンサイン
北新地はかなり細い路地で入り組んでいる
北新地の北限となる国道2号線。この道路を超えると梅田だ