プロ野球ではホームチームとビジターチームに分かれることはよく知られている。
また、それぞれのチームにはホーム用とビジター用という2種類のユニフォームがあることは周知の通り。
公認野球規則では、ユニフォームに関してこう書かれている。
1・11(b)(2)
各チームは、ホームゲーム用として白色、ロードゲーム用として色物の生地を用いて作った二組のユニフォームを用意しなければならない。
ただし【注】では、アマチュア野球の場合は一組でもよい、とされている。
プロ野球ではホーム用ユニフォームは白と規則で決まっているわけだが、最近のメジャーリーグではホーム用ユニフォームを色物にしているチームもあるし、日本でも復刻ユニフォームなどでホーム用を色物にしている例もある。
つまり規則はあまり守られていないわけだが、それでもホーム用は白というのが基本だろう。
しかしアメリカンフットボールでは、野球とは逆にホーム用は色物、ビジター用は白のユニフォームを着用することになっている。
これはホームチームがチームカラーのユニフォームを着用する、という原則があるためで、理にかなった理由だと言える。
他のスポーツでもホーム用が色物(チームカラー)、ビジター(アウェイ)用が白というケースが多いようだ。
つまり、野球だけが特殊だと言える。
ではなぜ、野球ではホームが白、ビジターが色物なのだろう。
ビジターの色物と言っても、野球の場合はチームカラーというよりも、地味なグレーなどが多い。
これには諸説あるが、一番魅力的なのが「昔は洗濯事情が悪かったから」という説だ。
アメフトではロードに出ても1試合でその土地を離れるが、野球の場合は連戦することが多い。
現在では3連戦システムが基本となっているが、要するにロードに出ればその土地で3日間ぐらいは毎日試合をするということだ。
昔のことだからそう何着もユニフォームを持っているわけではなかっただろうし、クリーニング施設の確保もロードではままならなかっただろうから、次の日も洗濯せずに同じユニフォームでプレーせざるを得なかったのである。
その際、ビジター用のユニフォームが白かったら汚れが目立つが、色物、特にグレーならば汚れをごまかすことができる、というのがこの説の根拠だ。
本当かどうかはわからないが、なかなか説得力のある説である。
ところで、野球のホームとビジターについて、もう一つ疑問がある。
なぜ野球では、ホームチームが後攻と決められているのだろう(ジャンケンで先攻・後攻を決める高校野球などは除く)。
これは誰もが一度は持った疑問だと思うが、あまりにも当たり前に行われているので、敢えてこの疑問を口にする人は少ない。
フットボール系のスポーツでは、キックオフとサイドはコイントスによって決められ、どちらがホームかは関係ない。
つまり、コイントスに勝つと必ずキックオフを取るAというチームと、必ずサイドを選択するBというチームが対戦すれば、どちらがコイントスに勝っても毎試合Aチームのキックオフによって試合がスタートすることになる。
その点、野球のようにルールでハッキリ先攻・後攻を決めていれば、ホームゲームとビジターゲームが同数ならば公平性を保てる。
ではなぜ、ホームチームは先攻ではなく後攻なのだろうか。
アメリカのアマチュア用の野球場では、スコアボードのチーム名の欄には先攻がVISITOR、後攻がHOMEと最初から書かれていることが多い。
つまりアメリカでは昔からホームチームが後攻というのが当たり前なのだが、普通の発想で言えばホームチームこそ最初に攻撃すべきだ、と考えるだろう。
野球の醍醐味はなんと言っても打つことであり、ホームチームの権限で先に打たせろ、と考えるのが妥当だ。
おまけに後攻チームがX勝ちした場合は1回分攻撃ができないのだから、楽しみが減ることになる。
何よりも攻撃的な国民性を持つアメリカ人ならば、先に打ちたいと思うのが人情ではないか。
これにも諸説あるが、列挙してみる。
(1)野球の花形ポジションは投手だから、まずホームチームの投手を見たいというファン心理。
(2)野球は後攻が有利だから、ホームチームが有利なように仕向けた。
(3)後攻チームならサヨナラ勝ちがあるので、最も劇的な瞬間をホームチームのみが味わえるようにした。
(4)ビジターチームは文字通りVISITOR(訪問者)なので、礼儀としてお客さんから打たせようとした。
まず(1)は、昔は投手が必ずしも花形ポジションではなかったから、この説は考えにくい。
昔の投手はソフトボールのような下手投げで(もちろんウィンドミルのような投法は存在せず)、打たせるのが目的のポジションだった。
打者は投手に対して、コースを指定することすらできたのである。
ナショナル・リーグが誕生した1876年でも、まだこのルールは残っていた。
野球で上手投げが認められたのは1884年のことであり、打者が投手にコース指定をできなくなったのが1887年のことだ。
いずれにせよ、ナショナル・リーグが誕生した頃の野球では、投手は現在のようなカッコいいポジションではなかったのだ。
もちろん、この頃のナショナル・リーグでは、既に現在のようなフランチャイズ・システムを導入している。
ただし、1890年4月22日にポロ・グラウンズで行われたニューヨーク・ジャイアンツ(現、サンフランシスコ・ジャイアンツ)×フィラデルフィア・フィリーズの試合記録を見ると、ホームチームのジャイアンツが先攻になっている。
では、「ホームチームは後攻」というルールはいつ発生したか?という新たな謎が出てきた。
(2)の後攻有利説も、本当に後攻が有利かは立証されておらず、また当時から「後攻が有利」という考え方があったのかは疑問だ。
なのでこの説はちょっと信憑性が薄いと言わざるを得ない。
(3)のサヨナラ勝ち説が妥当な線か。
野球で一番劇的なのはサヨナラ勝ちであり、これを味わえるのは後攻チームの特権だ。
その特権をホームチームが持つというのは自然な考え方である。
サヨナラ勝ちの瞬間にはホームチームの本拠地球場は興奮の坩堝と化するだろう。
逆にビジターチームがサヨナラ勝ちすると、球場はお通夜のように静まりかえるに違いない。
それどころか、暴動が起こることだって考えられる。
興行的な面から考えても、サヨナラ勝ちでファンが大喜びするのが望ましい。
つまり、フランチャイズ制が導入された頃は、ホームチームが先攻だったか、あるいは先攻・後攻をコイントス等で決めていたが、サヨナラ勝ちの特権がある後攻をホームチームにしよう、としたわけだ。
面白いのが(4)の説だ。
多民族国家だからこそ礼儀を大切にして、相手に先に打ってもらおう、と考えても不思議ではない。
ホームチームを有利に、とは逆の発想だ。
アメリカを象徴する西部劇では、ガンマンは「お前から先に抜け」とフェアプレー精神を発揮する。
ビジターチームに対しても「お前から先に抜け」という考え方かも知れない。
でも、だったらなぜ最初から「ビジターチームは先攻」としなかったのかという疑問は残る。
どれが真相なのかはわからないし、いつ頃から「ホームチームは後攻」というルールが誕生したのかは不明だが、歴史のルーツを辿って推理するのは楽しい。