毎週水曜日、ここで「野球少年の郷(ふるさと)・墨谷―『キャプテン』『プレイボール』の秘密―」を連載しているが、僕が初めて読んだ野球漫画は「キャプテン」「プレイボール」(共にちばあきお・著)ではない。
「はじめに」でも書いているが、初めて読んだのは「小学三年生(小学館)」に連載されていた「アリンコ球団」である。
http://neterlands.web.fc2.com/i00-01.htm
著者の吉森みき男は他にも週刊少年チャンピオン(秋田書店)で「しまっていこうぜ!」「つっぱしり元太郎」などの野球漫画を連載していたが、ちばあきおの上記二作品や、当時同じくチャンピオンに連載していた超人気の「ドカベン(水島新司・著)」に挟まれて、今一つ目立たなかった。
この頃からかつて一世を風靡した「巨人の星(原作・梶原一騎、作画・川崎のぼる)」のような魔球が登場する野球漫画ではなく、リアルな野球漫画が人気を得るようになり、吉森みき男の作品もその路線だったが、ちばあきおと水島新司という両巨頭の陰に隠れた形となってしまった。
むしろ一風変わった野球漫画の「行け!!ライパチくん」が吉森みき男の代表作と言えよう。
では、僕が初めて読んだ野球漫画「アリンコ球団」とはどんな作品だったか?
もう当時の漫画は残っていないので、30年以上前の記憶を辿って記してみる。
したがって、記憶違いはご容赦願いたい。
小学三年生の仲間9人(野球をするつもりだったわけではなく、偶然9人。内、女の子1人)が原っぱに集まり、みんなで遊べるように雑草をむしったり石をどかしたりした。
苦労の甲斐があってようやく遊べるように整備された頃、六年生の集団がやってきて、ここで野球をやらせろ、と言ってきた。
せっかく綺麗にしたばかりの広場を横取りされてはたまらん(実にオッサン臭い言い方だが、他に表現が思い浮かばない。許されよ)、とばかりに三年生たちは当然反発。
それでどういういきさつになったのかは憶えていないが、野球で勝負してこの広場の所有権を賭けることにした。
六年生が相当なゴリ押しをしたようである。
六年生と三年生では勝負になるはずがない。
当然、六年生が一方的にリードした。
しかし試合の終盤、たまたま通りかかった見ず知らずのクリーニング屋のお兄さんが、三年生たちをコーチするようになって、互角に戦えるようになった(といういきさつだったと思う)。
そして最終回、遂に1点をもぎ取り、六年生を落胆させた。
試合は六年生の一方的なリードのままだったが、三年生のがんばりに広場をよこせとは六年生たちも言えなくなり、無事に広場は三年生たちのものになった。
ここに三年生だけの野球チーム「アリンコ球団」が結成された。
ちなみに誰が「アリンコ」と名付けたのかと言えば、六年生がチビッ子という意味でそう呼んでいたのが由来である(と思う)。
自分たちで整備した広場をホームグラウンドに、クリーニング屋のお兄さんを監督に迎えて、アリンコ球団の快進撃が始まった……。
というストーリーだったと思う。
「小学三年生」に連載されていただけあって、主人公も当然小学三年生。
その割には、随分高度なプレーが多かったように思う。
また、欄外には野球用語についての説明をしてくれていたので、野球のルールを覚えるのにはもってこいだった。
それにしても、野球目的ではない広場だったのに、偶然なのか少年野球に適した立派なグラウンドになっていた。
それに、バックネットやちょっとしたベンチ、黒板のスコアボードも備えていたと思う。
いつからそうなったかは憶えていないが、結構金がかかっただろう。
また、六年生と試合をしたあとにチームを結成してからは、ユニフォームもちゃんと揃えていた。
小学三年生の小遣いではかなり無理があり、クリーニング屋のお兄さんが援助していたとも思えない。
見えないところで親のバックアップがあったのだろうか。
……ってそもそも、この土地の所有者は誰なんだ!?
公共の公園ではないことは確かである。
また、アリンコの選手の中に地主の子供がいるのであれば、六年生が広場を独り占めにしようとしたときに、親を呼んできて追い払えばいいだけの話だ。
地主に無断で遊ぶ程度なら大目に見てもらえるかも知れないが、勝手にバックネットやベンチを作ってしまってはマズかろう。
しかもその後、この広場(というよりも、既に立派なグラウンド)で結構本格的な少年野球の試合を何度も行っているのだ。
グラウンドを借りるだけで高い使用料を取られるこのご時世、実にボロい話である。
六年生たちが三年生たちから広場を横取りしようとしたというより、小学三年生のクソガキどもが地主から土地を強奪した、というのが正しい見方なのかも知れない。