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安威川敏樹のネターランド王国

お前はチョーマイヨミか!?

ネターランド王国憲法

第1条 本国の国名を「ネターランド王国(英名:Kingdom of the Neterlands)」と言う。
第2条 本国の国王は「禁句゛(=きんぐ)、戒名:安威川敏樹」とする。
第3条 本国は国王が行政・立法・司法の三権を司る、絶対王制国家である。
第4条 本国の公用語は日本語とする。それ以外の言語は国王が理解できないため使用禁止。
第5条 本国唯一の立法機関は「日記」なる国会で、国王が一方的に発言する。
第6条 本国の国民は国会での「コメント」で発言することができる。
第7条 「コメント」で、国王に不利益な発言をすると言論弾圧を行うこともある。
第8条 「コメント」で誹謗・中傷などがあった場合は、国王の独断で強制国外退去に踏み切る場合がある。
第9条 本国の国歌は「ネタおろし」とする(歌詞はid:aigawa2007の「ユーザー名」に記載)。
第10条 本国と国交のある国は「貿易国」に登録される。
第11条 本国の文章や写真を国王に無断で転載してはならない。
第12条 その他、上記以外のややこしいことが起きれば、国王が独断で決めることができる。

数字と記号で綴られた物語

故・山際淳司さんの短編ノンフィクションに「スコアブック」という作品がある。
その内容を簡単に説明してみる。


山際さんの友人が古本屋で見つけたという野球のスコアブックを譲り受けて、ページを開いてみると中に一通の封筒があった。
封筒の差出人はさる男性で、女性宛てに手紙を送ったことになっているが、封筒の中に入っているのは切り取られたスコアブックのページだけだった。
スコアシートに書かれている試合は戦前の昭和10年の早慶戦で、2−0で慶應義塾が勝ったことになっている。
しかし、早稲田の7回から9回までの攻撃を見ると、実に奇妙だ。
3イニング連続で無死満塁のチャンスを作りながら、1点も取れない。
それどころか8回など、ヒット6本も続きながら無得点だ。
そんな試合があったのかと山際さんが調べてみると、実際には3−2で早稲田が逆転勝ち、つまり差出人の男性はデタラメのスコアシートを女性に送り付けていたことになる。
封筒の住所から持ち主がわかり、差出人の男性の息子と会うことができ、女性の名前はその人の母親の旧姓だということがわかった。
山際さんとその人は、今は亡き両親が結婚前になぜそんな手紙のやり取りをしたのかと推理し、父親が母親に宛てたラブレターだったのだろう、という結論に達した。
結婚したくてもできない事情があって、そのもどかしさをデタラメなスコアシートにメッセージとして託したのではないか、ということだ。
本当にそうだったのかはわからないが、たかが野球のスコアブックで随分ロマンチックな話である。
それに、戦前の日本でこんなラブロマンスがあったというのはなかなか想像し難い。
スコアシートに想いを綴ってラブレターにするということは、相手の女性もスコアブックを読めたということだ。
その時代の女性にしては珍しかっただろう。
それにしても、スコアブックなどという大凡ロマンスとは無縁の紙切れで、これだけのラブストーリーが隠されているというのも驚きである。
スコアブックにはドラマが詰まっている、ということだろうか。


ところで、日本の野球スコアブックは大きく二種類に分かれていて、一般式と呼ばれるものと、プロ野球式と呼ばれるものがある。
一般式は早稲田式とも言い、市販されているのはこのタイプが圧倒的に多い。
プロ野球式は慶應式とも呼ばれており、その名のとおりプロ野球記録部ではこの方式で記録を録っている。
一つの試合でこの二種類のスコアシートを並べてみよう。
いずれもイチロー松坂大輔の日本での初対決の試合で、イチローが所属していたオリックスの攻撃のみである。
まずは一般式(早稲田式)から。
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次はプロ野球式(慶應式)。
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大きすぎて細かい部分がわからないかも知れないので、西武の攻撃に面白いのがあったから、そのイニングを載せてみる。
まずは一般式。
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そしてプロ野球式。
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この回の打者三人の攻撃を説明しよう。


先頭打者が、ショートライナーで1アウト。
次の打者がレフトへ二塁打を放つも、三塁を陥れようとしてレフト→ショート→サードとボールが渡りタッチアウト。記録は二塁打。
三番目の打者は、サードゴロで3アウト。結局この回は三者凡退。


全く同じことを示しているのだが、一般式とプロ野球式では随分違うという印象だろう。
たとえば二番目の打者の二塁打は、一般式の方が「いかにもツーベース」という感じを持つ人が多いかも知れない。
一般式は一つの打席に四つの塁を表わす枠がはっきり分かれており、ビジュアル的には非常に見易い。
それに対してプロ野球式は数字と記号の羅列というイメージで、普通の人には取っ付きにくい感がある。
一般式(早稲田式)の方がその名のとおり一般的に広まったというのも頷けるだろう。
だが、プロ野球記録部が慶應式を選んだのも理由があって、こちらの方がデータを整理するのに非常に便利なのだ。
慶應式を考案したのは当然のことながら慶大出身である直木松太郎で、その記録方法を弟子の山内九以士がプロ野球記録部に持ち込み、慶應式が定着した。
一方、早稲田式の原型を形作ったのは、もちろん早大出身の「学生野球の父」と呼ばれた飛田穂洲で、後人によって改良が加えられたと言われている。


野球の本場、アメリカのスコアブックはどうなっているのだろう。
スコアブック発祥の地は当然の如くアメリカで、早稲田式と慶應式もアメリカのスコアブックを参考に作られたものだ。
共にアメリカ式を参考にしながら二種類の記録方法が生まれたくらいだから、やはりアメリカにも様々な記録法があるようである。
そして、その方法は日本式とは似ても似つかないものだ。
ただ、ウィキペディアには「野球の守備番号は日本独特のものでMLB(筆者注:アメリカ)などにはこのような考え方は存在しない」と書かれているが、これは全くの誤りである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%88%E5%82%99%E7%95%AA%E5%8F%B7
アメリカのスコアボードの守備位置欄は日本のように守備番号を使わず「1B(一塁手)」や「CF(中堅手)」などと表示しているので、このような誤解が生まれたのだろう。
日本で守備番号が定着したのは、言うまでもなく高校野球の背番号によるものが大きいと思われる。
背番号を見るだけで守備位置がすぐわかるから、スコアボードでも守備番号を違和感なく受け入れることができ、逆に東京ドームでは一時期アメリカ式の守備記号を使用したことがあるが、不評だったのか元の守備番号に戻っている。
守備記号が一般的なアメリカでもスコアブック記入の時は別で、守備番号が使われている。
これは当然と言えば当然で、守備記号だと一文字で表されるのは「P(投手)」と「C(捕手)」だけで、あとは全て二文字だから記入するのには非常に不便である。
その点、数字一文字で守備位置を表すことができる守備番号は大変便利だ。
手許にボストン・レッドソックスのパンフレットがあるが、スコアシートがちゃんとついてあり、記入方法の説明書きには下の方にちゃんと守備番号について説明している。
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ただ、詳しく記入法を見てみると、早稲田式とも慶應式ともまるで違う。
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一番ボッグスがヒット(右下の横一本線がヒットの記号)で出塁。
二番バレットのサードゴロでボッグスが二塁フォースアウト
三番バックナーがヒットでバレットが一気に三塁へ、一死一、三塁。
四番ライスが二塁打を放ち、二者が生還(右上の横二本線が二塁打、その下の二つの点が2打点の記号)。
五番エヴァンスのライトフライでライスがタッチアップを試みるも、ライトからサードへ送球されタッチアウトでダブルプレー、チェンジ。
結局この回、3本のヒットで2得点、残塁なし。


という意味らしい。
英語の説明を何とか頭を捻りながら読んで解釈したが、おそらく間違いないだろう。
日本だと一般式でもプロ野球式でも、真ん中にアウト数や得点、残塁の記号が入るが、このスコアブックはそうではないらしい。
エヴァンスの打席を見ると、ライトフライを意味する「9」がド真ん中に書かれている。
また、バレットの「FC」は日本式のフィールダース・チョイス(野手選択・ゴロのとき野手が間に合わない塁に送球する行為)ではなく、サードが二塁送球を選択したために一塁に生きた(二塁はフォースアウト)という、文字通りfielder's choiceという意味なのだろう。
日本では、ヒットやエラーと区別するときにフィールダース・チョイスという言葉が使われるケースが多い。
だがそれはスコアボードの記録エリアに「Fc」と点灯するからそう思われているだけで、日本でも公認野球規則では、ゴロのとき一塁に投げず他の塁に送球して打者走者が一塁に生きれば、走者がセーフになろうがなるまいが立派な野選となる(野球規則2・28。他にも野選の解釈あり)。


上で紹介したのはパンフレットの付録なので当然ファン向けのスコアシートであり、日本のスコアブックに比べると大雑把な印象だが、やはりアメリカでも評論家などはかなり細かいスコアブックを使っているようだ。
下のスコアブックは「ウィルソン・スタイル」というもので、打者ごとに扇形のフィールドが書かれていて、一打席ごとに打球の方向が記されている。
さらに右の列には四球、死球、バント、単打、二塁打、三塁打、本塁打と、出塁した時に○で囲えば済むようになっている優れ物だ。
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僕はこの二つしか見たことがないが、本場のアメリカにはもっと色々なスコアブックがあるに違いない。


レッドソックスのパンフレットにスコアシートが付いていることでもわかるように、アメリカではスコアブックを付けながら観戦するという光景は珍しくない。
父親が球場に連れてきた息子にスコアブックの付け方を教えているというのも、アメリカのボールパークではよくあることだ。
映画「フィールド・オブ・ドリームズ」では、主人公のケビン・コスナーレッドソックスの本拠地であるフェンウェイ・パークで、スコアブックを付けながら観戦し「天の声」を聴くというシーンがあった。
いかにもアメリカの野球映画らしい絵である。
ホットドッグ、コーラ、ビール、グラブと共に、アメリカのボールパークではスコアブックが重要なアイテムなのだろう。


翻って我が日本の球場風景はどうだろうか。
僕が子供の頃、父親にスコアブックの付け方を教えてもらい、球場に連れて行ってもらった時も父親はよくスコアブックを付けていた。
そしてそれは、父親だけではなかった。
スタンドには他にもスコアブックを付けている人が多くいたことを記憶している。
その頃の球場には、写真入りではない安い選手名鑑が売っていて、裏面には必ずスコアシートが付いていた。
スコアブックを持って行かなくても、ペンさえあればスコア記入できたわけである。
ところがいつの間にかスコアシート付きの選手名鑑は姿を消し、スコアブックを付けている人も姿を消し、手に持っているのはメガホンだけになってしまった。
メガホンを持って何が悪い、俺たちがプロ野球を盛り上げてるんだ、と反論する人も多いだろう。
もちろん、それが悪いことでは決してなく、プロ野球人気が盛り上がるのは大いに結構なことだ。
僕だってメガホンは持たないものの、そんな球場で野球を楽しんでいる。
だが、メガホンを持って大騒ぎするファンしかいない、というのが何となく悲しくなるのである。
この国の野球は、どれだけの人が今後も愛してくれるのだろう、と。


ところが、社会人野球や学生野球のスタンドにはスコアブックを付けている人が大勢いる。
もちろん、評論家やスカウトも多いのだろうが、そうではない一般の人でも多くの人がスコアブックを付けながら観戦している。
彼らはプロ野球に嫌気がさしてアマチュアに流れて来たのだろうか。
そうではないことを望む。
ただ一つだけ言えることは、この国の野球文化はまだまだ捨てたものではない、ということだ。
彼らのような存在が多くいる間は、日本野球は安泰だろう。


そんな彼らのためにも提案だが、プロ、アマを問わず電光掲示板で一打席ごとの公式記録を明示してくれないだろうか。
現在の日本の球場で記録が明示されるのはH(ヒット)、E(エラー)、Fc(野選)の三種類のみ。
これだけだとスコアブックを付けるときには不十分だ。
たとえば、ショートゴロで一塁送球、ところがファーストがボールをこぼし、Eランプが点灯する。
しかしEランプだけではショートとファースト、どちらのエラーかわからない。
このケースではどちらのエラーになるか、守備記録が全然違ってくる。
ショートの悪送球だと、当然ショートにエラーが付くだけで、ファーストの守備機会はなし。
ところがファーストの落球になると、ファーストにエラーが付くだけでなく、ショートには補殺が付いてしまうのだ。
つまりエラーがどちらに付くかによって、ショートは天国と地獄を味わうことになる(そんな大袈裟なものではないが)。
甲子園ではEランプと共にエラーした選手の守備番号が点くが、それだけではなく一つ一つのプレーについて公式記録を示してもらいたい。
三振、四球、二塁打、盗塁、捕逸など全てである。
ややこしいプレーなら、文章でその説明をしてほしい。
今はフリーボードの電光掲示板を備えている球場が多いから、充分可能なサービスだろう。


また、そのフリーボードに、イニングの合間にはスコアブックと同じ画面を映すというのはどうだろうか。
今ではスコアブックのパソコンソフトも売られているし、決して不可能とは思えない。
それが難しいのなら、日刊式テーブルスコアを表示してもいい。
日刊式テーブルスコアは走者の進み方がわからないものの、スコアブックの読み方を知らない人でも理解できるし、一般式スコアブックを基本にしているからスコアブックを読む勉強にもなるはずだ。
そうすればスコアブックを読める人が増えることも期待できる。


スコアブックは「見る」ものではなく「読む」ものである。
読めるようになれば、野球の見方も拡がってくるはずである。
それは、野球という筋書きのないドラマを読んでいることに他ならない。
そんなもん、読めんでも充分野球を楽しんどるわい、という人もいるだろうが、読めるようになっておいて損はない。


それに、スコアブックを書けるようになって、恋人がそれを読める人なら、冒頭のようにロマンチックなラブレターを出せるかも知れないのだから―。